糖尿病の最新治療 インクレチンとDPP-4阻害薬について

【インクレチンとは】
 インクレチンとは、食後に腸管から分泌されるホルモンの総称です。1932年La Barreが、すい臓の内分泌を促進する消化管のホルモン様活性について『インクレチン』と名付けました。1964年にMclntyreらとElrickらの2つの研究グループから、ブドウ糖を静脈から注入するよりも経口で摂取したほうがインスリンを多く分泌することを発見し、この両者のインスリン分泌の差を『インクレチン効果』と呼びました。
 1973年には、胃酸分泌抑制ペプチド(gastric inhibitory peptide:GIP)がヒトのインスリン分泌を促進することが証明され、GIPはインクレチンとして初めて同定された物質であり、『ブドウ糖依存性インスリン分泌ペプチド(glucose-dependent insulinotropic polypeptide)』と呼ばれるようになりました。1987年にはglucagon-like peptide 1(GLP-1)もインクレチンであることが判明しました。

 表.インクレチンの種類と分泌される細胞
インクレチンの種類 分泌される場所
GIP K細胞(主に十二指腸や空腸)
GLP−1 L細胞(主に回腸や大腸)

 さらに2型糖尿病患者ではインクレチン効果が減弱していることがわかり、以後インクレチン効果を増強することが2型糖尿病治療に有効であるという仮定のもと、研究開発が進んできました。

【インクレチンの働き】
 インクレチンには、主な3つの働きがあり、血糖値をコントロールします。

① すい臓のβ細胞からのインスリン分泌を増加させる。
② すい臓のα細胞からのグルカゴン分泌を抑制する。
③ すい臓のβ細胞の働きを保護する。

 これらの作用は、血糖値が上昇しているときに発揮され、血糖値が正常値にコントロールされているときには働かないため、血糖依存的な作用であると考えられています。しかし、インクレチンは分泌後速やかにDPP-4(ジペプチジルペプチダーゼー4)と呼ばれる酵素により分解されてしまいます。こうしたことからインクレチン作用を増強するための試みとして①DPP-4を阻害することによりインクレチン効果を増強する製剤の開発、②DPP-4による分解を受けにくいアナログ製剤の開発、③DPP-4による分解を受けにくい投与法の開発が行われました。

 図.インクレチンの分泌とDPP−4による分解
図.インクレチンの分泌とDPP−4による分解

【インクレチン製剤の発売】
 2009年12月よりわが国においてDPP-4阻害薬(シタグリプチン)発売となり、4月に新たにDPP-4阻害薬(ビルダグリプチン)が発売になりました。この薬一種類を内服している場合は、基本的に低血糖の心配はほとんどないと考えられますが、アマリールやオイグルコン、ダオニールなどのスルフォニル尿素剤(SU剤)との併用することで低血糖がおきたという報告があります。
 今後、DPP−4により分解されないGLP-1誘導体(注射薬)の発売も予定されています。米国では2005年にすでに発売が開始されており、HbA1cや空腹時血糖値の低下、体重減少をきたすことが報告されています。

 表.現在日本で発売されているインクレチン製剤
一般名 商品名 内服方法
シタグリプチン ジャヌビア(25・50・100r錠)
グラクティブ(25・50・100r錠)
1日1回
ビルダグリプチン エクア(50r錠) 1日2回

 これらの薬剤は、これまでの血糖降下薬とまったく異なる新しい作用機序で2型糖尿病患者さんにおける高血糖を改善できるのではないかと期待されています。

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